トリッカルの呪われた毛布

2026-08-06

トリッカルのストーリーを読んでいると、独特の重苦しい残酷さ、不気味さを感じさせられることが少なくありません。
一方で、その中に希望が見えてくることもあります。
今回はシオン、シュパンのイベントで感じた、トリッカルの独特さについて感想を書きたいと思います。

シオンについて…


シオンは、巨大な銃と中二病的な言動が目立つキャラクター。
種族は幽霊。世界観に関わる「エルダイン姉妹」のひとりでもあるようです。
何かとお人好しで、健気な人物ですが、その運命は過酷です。
とても可愛いです。

イベント「自ら選んだ闇の道」では、彼女がトレードマークの巨大な銃を入手するに至った経緯が語られます。

姉妹を探し、放浪し続けるシオン。
精霊と交流を深めたり、幽霊に洒落にならない悪戯をされたりしながらも、その旅は続いていきます。
最終的に、シオンはエルフの都市「モナティアム」に流れ着き、
コンビニ店員としてなんとか生計を立てていくことになります。
楽な仕事ではないはずですが、生来の真面目さ、店長である竜族ゴールディの人柄もあって、
だんだんと居場所を感じられるようになるシオン。
しかしそこにトラブルが舞い込みます。
竜族リッツがゴールディに戦いを挑むべく、コンビニに飛び込んできたのです。
シオンは、苦戦しながらも、旅の中で身につけた技術を元に、なんとかリッツを撃退…
多額の報奨金を得ることができました。

シオンが手に入れた報奨金は、モナティアムに家を買えるほどの額です。
使い道に悩みネット掲示板で相談するシオンの目に、ある書き込みが飛び込んできます。
その書き込みで紹介されたアイテムこそ、シオンのトレードマークである巨大な銃です。
銃に惚れ込んだシオンは、早速購入し、
デウス‐エクスマキナ・インターフェアレンス・トラブル・シューター
略してディーイグジットと名付けます。

しかし実は、ディーイグジット自体に特別な力は何もありません。
何者か(おそらくはエルフ種族のトップであるエレナ)が、
これ幸いと詐欺まがいのぼったくりで売りつけたアイテムにすぎないのです。
そんな事も知らず、シオンはディーイグジットをたいそう気に入り、相棒として扱うようになります。

シュパンについて…

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シュパンは、妖精王国唯一の配送屋。
仕事にプライドを持っており、テンションが高い人物です。
日々、セグウェイのような乗り物「シュパボルト」とともに世界中を駆け巡っています。
とても可愛いです。

イベント「疾走! 怒りのデリバリー!」では、シュパンと愛機シュパボルトの出会いが描かれます。
イベントストーリーは、圧倒的な配送実績からシュパンが表彰されるシーンから始まります。
ここでエルフから贈られるのが、冒頭のセグウェイのような乗り物です。
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シュパンはひと目見てこの乗り物を気に入り、シュパボルトと名付けて、日々の仕事をともにすることにします。

しかし、ここから歯車が狂い始めます。
凄まじい量の配送依頼が舞い込む一方で、シュパボルトは頻繁に故障するようになってしまうのです。
故障のたび、シュパンは修理のため、遠方のエルフの街まで向かい、高額の費用を支払うことになります。
時間もお金も減っていく中でシュパンは満足に睡眠も取れない状況に陥ります。
追い詰められたシュパンは仕事を辞め、妖精王国を飛び出します。
シュパンは放浪する中で、獣人のバナと出会い、シュパボルトを再度修理してもらうことになりますが、ここで驚きの事実が判明します。
なんと、シュパボルトの故障はすべてエルフによって仕組まれていたのです。
しかも、エルフの陰謀は、シュパンから修理費を搾取することだけではありませんでした。
シュパボルトを故障させながら、自作自演的に大量の運送依頼を出し、シュパンを疲弊させていたのです。
エルフたちは、シュパンを運送業から撤退させ、自分たちのドローン運送事業に置き換えようと企んでいたのでした。
真実を知ったシュパンは、怒りのままにシュパボルトを駆り、エルフの都市モナティアムに突撃します。
シュパンは、ドローンの製造工場に製造妨害装置を取り付け、逆にドローンを一定確率で故障するように仕組みました。
様々な罪により一時は逮捕されたシュパンですが、取引により釈放。
出所したシュパンが、恩人のバナとともにドライブに出る…という形でイベントストーリーは幕を閉じます。

Uber的ギグエコノミーや、消費者の修理する権利、搾取的なサブスクリプションサービスの観点を盛り込みながらも、
爆発的な復讐が果たされる爽快なストーリーです。

私の感想…

シオンのストーリーとシュパンのストーリーは、いずれも妙な後味を残します。

いま彼女たちがディーイグジットやシュパボルトとともに飛び回っているのは、なんとも可愛らしく、心温まる光景です。
しかし、もとを辿れば、ディーイグジットは詐欺で押し付けられた代物です。
シオンはディーイグジットに大枚をはたいていなければ、今頃モナティアムに家を買って、もっと余裕のある暮らしをしていた可能性が高いです。
また、シュパンのシュパボルトは、物流ビジネスをシュパンの手から奪い取るべくエルフが仕込んだ悪質な罠でした。
今でこそ、シュパンの相棒になっていますが、その本来の目的はシュパンを陥れることでした。
実際、作中シュパンはブラック労働で睡眠もままならない状態になっていました。

つまり、彼女たちの相棒の出自はいずれも不穏当なもので、彼女たちの苦境と密接に関連しているのです。
一方で、彼女たちの相棒への愛着は紛れもなく本物であり、それが彼女たちの支えになっていることも間違いないでしょう。

こういった構図から、ソーシャルゲームであるトリッカル自身を読み込むのは少し行きすぎかもしれません。
しかし、悪辣なビジネスのために生産されたアイテムが、同時に個人の心の支えになりえるという事態は、世界中に存在していると思います。
この2つのイベントストーリーは、こういった居心地の悪い事態を、どこか温かい視線で見つめているような気がします。

トリッカルは経済の構造に鋭い目線を向けている作品だと思います。
生産(労働)、消費、生活の理不尽な構造に個々人が否応なく組み込まれていることへの描写が多数観られます。
今回取り上げた2つのイベントも、まさに経済構造を批判的に見る本作らしいと感じました。

また、このイベントに限りませんが、本作のエルフは、ナショナリスティックなテックライトとして描かれています。
彼女たちの目的は、「祖国に帰る」といったもの。
その目的を果たすべく、数々の非道を働く、という、初めて見るエルフ像です。
アメリカとイスラエルの現状を落とし込んだのではないかと思わせる、強烈な描写が印象的です。


余談ですが、本作も多大な影響を受けていそうなブルーアーカイブは、「倫理的主体としてのキャラクター」という切り口にフォーカスしていた感があります。
本作は社会批判としても違う軸が志向されているように見え、大変興味深いところです。